レジ袋有料化から考える ゴミ袋の売れ行きが伸びる矛盾

水戸部六美 中島嘉克 根岸拓朗
[PR]

 7月からプラスチック製レジ袋の有料化が小売店に義務づけられました。プラスチックごみによる海洋汚染などが問題となる中、プラスチックに依存した生活を見直してもらうことが狙いです。しかし、「単なる値上げとしか思えない」「新型コロナウイルスの影響でマイバッグの衛生面が心配」など反対意見もあふれています。現場で何が起こっているのでしょうか。

環境問題が深刻化 脱プラへの契機に

 今回のレジ袋有料義務化の話が、政府方針として初めて示されたのは2018年です。30年までに使い捨てプラスチックの排出量を25%削減するなど、プラスチックの減量、再使用、再生利用に向けた目標を掲げた「プラスチック資源循環戦略」の素案の中でした。

 背景には、環境問題への対応が厳格化する世界の流れがあります。

 17年末に、中国が廃プラスチックの輸入を原則禁止しました。洗浄や分別が不十分な廃プラスチックが環境汚染を引き起こしたためで、輸入規制の動きは東南アジアにも広がっています。中国が最大の輸出先だった日本も国内にとどまる廃プラスチックの量が増え、対応を迫られています。来年1月からは、有害な廃棄物の国境を越えた移動を規制する「バーゼル条約」で、「汚れた廃プラスチック」は相手国の同意がなければ輸出できなくなります。

 海洋プラスチックごみの問題も深刻です。適切に処理されなかったプラスチックごみは、世界で年800万トンが海に流れ込んでいると推計されています。プラスチックは自然の中で分解されにくく、海の生き物が誤ってのみこむ、体に絡まるなど、生態系に悪影響を及ぼします。50年には海のプラスチックごみが魚の重量を上回るという試算もあります。

 またプラスチックごみは焼却処理しても、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出します。金融・ビジネスの世界でも、融資や取引の条件で環境を重視する流れが加速しています。

 こうした課題について、多くの人に関心を持ってもらうため、白羽の矢が立ったのが、ほかの容器包装に比べて、マイバッグで代替がしやすいレジ袋でした。

 国内のプラスチックごみに占めるレジ袋の割合は数%に過ぎません。しかし、そのほかのプラスチック製品も無駄に使い捨てていないか、見直すきっかけにしてもらうのが狙いです。もちろん、レジ袋だけでなくさらなるプラスチックの資源循環に向けて、企業や自治体などに求める施策についても、現在、政府で検討が進んでいます。(水戸部六美)

辞退率 大幅に増加

 レジ袋有料化は、西友やイオンといった大手スーパーでは2012年ごろから本格的に導入してきました。

 一方のコンビニは「ふらっと立ち寄ってもらうのに、マイバッグはそぐわない」といった理由で無料配布を続けてきましたが、大手3社を含む多くのチェーンは、国によって義務化された7月1日から、有料に切り替えました。

 値段はセブン―イレブンは税抜き3~5円、ファミリーマートローソンは税込み3円です。

 その結果、辞退する客の割合は一気に増えました。有料化前のコンビニ業界は30%に満たない状態でしたが、有料化後はセブンで75%、ファミマで77%、ローソンで75%。おおよそ4人に3人は、レジ袋を買っていません。

 セブンの東京都内の店員は「素手で持って帰る人もいるし、マイバッグも浸透している。レジ袋をわざわざ買うのはもったいない、と感じている人が多いのでは」と話します。

 この水準が続けば、ファミマだけで年に23億枚ほどの削減効果があるそうです。

 辞退率が上がっている傾向は、新たに有料にしたスーパーや百貨店でも同様のようです。首都圏や関西圏にあるスーパー、ライフの辞退率は48%から76%に急伸。そごう・西武でも飛躍的に伸び、85%に達しています。

 性別や年齢別では、どうでしょうか。

 レジ情報を分析しているマーケティング会社「トゥルーデータ」が約5千万人の購買データをもとにドラッグストアの7月上旬から中旬にかけての状況を調べたところ、男性より女性の方が、若者よりお年寄りの方が辞退する割合が高い傾向が出ました。男性67%に対し、女性は80%。20代が68%に対し、80代では82%に上りました。(中島嘉克)

「不自由感じず」「店側で負担を」 街の声

 レジ袋有料化を消費者はどう受け止めているのでしょうか。東京都内の街頭で聞きました。

 上野のアメ横商店街で買い物中だった主婦の鈴木真理子さん(69)は「何年もエコバッグを持ち歩いているから不自由は感じません」。幼いころは器やびんを持ち歩き、お店で豆腐や調味料などを入れてもらったといいます。「いまはゴミが増えましたよね。便利に慣れすぎている」

 会社員の山崎亜矢さん(32)は有料化を知り、あわててエコバッグを買ったそうです。「レジ袋はゴミ捨てに再利用してバンバン捨てていました。いまは貴重に思えます」。有料化は良い取り組みだと思うものの、包装などにプラスチックが大量に使われる現状が気になるといいます。「海にどういう影響があるか、もっと取り上げたらいいと思う」

 アメ横の食品スーパーでは、有料化の対象外となるバイオマス由来の素材を含む袋を導入し、1枚目は無料としました。店長は「年末など忙しい時はレジ前に行列ができる。袋が必要かを客に確認するのは大変です」。

 銀座で2歳の娘を連れていた女性(37)は「この子のおむつを捨てるのに1日2枚は必要。出費は少し痛いですがレジ袋は買っています」。飲食店経営の男性(45)は「袋はサービスの一環で店側が負担してほしい。エコバッグを持ち歩くのは面倒だし、持ちづらくないですか?」と不満げでした。

 宮崎市から出張中の後藤泰祥(やすよし)さん(64)は「将来のことを考えると、ペットボトルや総菜のトレーなど、レジ袋だけでなくもっと徹底してプラスチックを減らさないといけない」と話しました。(根岸拓朗)

一方、レジ袋サイズの袋 売れ行き2倍以上 ゴミ袋に…手放すのは難しく

 当たり前にもらえて日常生活で使われていたレジ袋。有料化で不便さを感じる人も少なくないようです。

 調査会社クロス・マーケティングが7月初旬、全国の男女1100人にレジ袋有料化で不都合に思うことを複数回答で尋ねたところ、「自宅のゴミ袋がなくなる(レジ袋をゴミ袋として再利用している)」が最も多く、38.5%でした。「袋やバッグを持参するのが面倒・忘れてしまう」が29.9%、「(弁当など)エコバッグに入れるのに適さない商品がある」が26.8%と続きます。

 とりわけゴミ袋の問題は切実なようで、小売店では束になったレジ袋がよく売れています。レジ袋は取っ手があって結びやすく、ゴミ袋として使ってきた人が多いためです。

 100円ショップのダイソーでは7月以降、入荷して店頭に陳列するとすぐ売れる品薄の状況が続いているといいます。有料化直前の6月は、昨年に比べて2倍以上の売れ行き。7月は3倍に迫るそうです。運営する大創産業の広報担当者は「もらえていたレジ袋を買ってゴミ袋にする、というサイクルに変わった。特に単身世帯はゴミ袋として使っているのでは」とみています。

 大手のホームセンターチェーンでも、8月のレジ袋の売れ行きは前年の2倍ほどに伸びています。消費量を減らすという有料化の目的と矛盾する現象ですが、やはりレジ袋を手放すのはそう簡単ではないようです。(根岸拓朗)

教育が大切 ■ 万引きの懸念 ■ 容器にも目を向けて

 デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●コンビニ店員、クレーム増えた

 コンビニ店員の意見です。レジ袋有料化で毎日コンビニを2回つかうとして、(レジ袋代)3円×2回×365日=2190円の実質値上げであり、これに尻込みしてレジ袋を避けるお客様が多くなった印象です。マイバッグへの詰め替えはお客様に一任する以上、レジ付近の混雑が激しくなり、慢性的にお客様をお待たせする事態となっています。なお、有料化後にごみとクレームが増えています。(静岡県・20代男性)

●次の世代のこと考えて

 スーパーなどではかなり前からレジ袋は有料で、日常的に買い物をする人間にとってはマイバッグ持参は常識になっていたと思います。これがコンビニなどにも波及するにあたり、そのような文化とは無縁だった層(主に男性)から激しく非難の声があがったこと(省令改正時でなく施行の直前と直後)は意識に留めたいと思う。「レジ袋有料化でどれだけ環境にプラスになったのか(可視化できていないじゃないか)」というツイートを見て、次の世代のためにわずかでもプラスになることであっても、自分の生きている間に「目に見える何らかの効果」がないと人は欲望を我慢できないのだなと知り、少し絶望的な気持ちになりました。(愛知県・20代女性)

●万引きやモラルの問題も

 顧客としてレジ袋の有料化自体は歓迎なのですが、マイバッグを悪用した万引きや、スーパーに備え付けのポリ袋を大量に持ち帰るなど、モラルのない方による別の問題も発生していて、小売店の方は困る場面も増えたのではないかと思います。(茨城県・30代男性)

●過剰包装、売る側も対策を

 毎日の買い物で、一番多く出るのは食品の包装材。必要以上に大きいプラスチックトレー、二重、三重のお菓子袋など。その量はレジ袋の何倍にもなります。商品全てを、もっとコンパクトに包装すれば、売り場面積も運送費もゴミの処理費用も節約出来るのでは? 中身を実際量より多く見せようとする上げ底精神や見栄えばかりを狙う包装。消費者は捨てるプラスチックごみやかさを多く見せるための空気にまでお金を払っています。レジ袋有料化だけで事が済んだとするのは安易過ぎでは? 消費者に協力を求めるだけでなく、商品提供側の合理的な対策も欲しいものです。(新潟県・70代女性)

●不衛生な袋、触りたくない

 小売業ですが、客から持参した袋を受け取り、商品を入れることがあるが、ぬれていたり、汚れていたり、臭いがしたりと不衛生でさわりたくないことが多い。プラスチックの削減自体必要と思っていない。エコ利権でもうけている人のための政策。(愛知県・40代女性)

●知ってもらうことが大切

 袋に着目するのではなく、プラスチックそのものに着目する機会になっているのならば、とても良い取り組みだと思います。今後の教育普及活動によって、今回の有料化への意識が変わります。環境問題に関心のない人は私たちの想像以上に関心がないです。一切の知識がありませんし、知ろうとも思っていません。知ってもらうことが大切です。(大阪府・20代女性)

●2枚目から有料にしては?

 1枚までは無料にして欲しい。温かい物と冷たい物を分けるなどで2枚目が必要な場合は有料にすれば良いのでは。もちろん今まではペットボトル1本買うだけでもレジ袋に入れられたりして無駄は多いと感じていたので、必要な人にだけ1枚無料で渡せばいいと思う。(埼玉県・30代女性)

●不便なことに慣れるしかない

 京都市のスーパーは以前から有料だったので、慣れていたため、有料化は当然と思っていました。ニュースで予想以上に反発の声が多かったので驚きました。便利なことに慣れてしまうとなかなか後戻りしにくいです。プラスチック製品削減を目指すには「不便なことに慣れる」を多くしていくしかないと思います。(京都府・40代女性)

●食料品の量り売り導入を

 レジ袋有料化はまったく問題ないと思います。つきつめれば、プラごみ削減のためには生鮮食料品の量り売りを導入すべきだと思います。これは欧米ではどこでも普通にしていることで、日本だけできないという理由はないはずです。(東京都・50代男性)

テイクアウト容器放置が問題

 家庭内でのゴミ処理のためにレジ袋を購入するようになったので、我が家でのレジ袋の使用量は変わっていません。レジ袋の有料化で店側はコスト削減に大喜びでしょうね。大はやりのコンビニなどのテイクアウトのコーヒーのカップやふたなどのプラゴミの方が悪質に感じます。ゴミ箱を撤去、またはゴミを捨て難くするコンビニも増えてきました。売りっぱなしの店舗に対する罰則の方がゴミ削減に繫(つな)がるような気がします。(富山県・50代女性)

●購入量多い子育て世代にはきつい

 プラスチック業界の弱い業種、単価の安い袋類が狙われた感が否めません。もっと見直すべきものはたくさんあるのに。家族分の食料品を購入するので、袋も数枚持ち歩きます。お店に段ボールなどがある時は、活用させてもらいます。単身者などは購入量も少ないでしょうが、子育て世代にはきついですね。(東京都・40代女性)

●やりとり増えデメリット感じる

 衛生的観点や利便性を考えるとプラ袋のほうがメリットを多く感じる。また、有料化したことで店員とのやりとりが増え、昨今の情勢でマスクや仕切り板などがあると円滑な意思疎通が難しくなっていると感じる。数人程度ならまだしもスーパーやコンビニなど人が集まる場所でやりとりが増え、滞在時間が長くなり、顧客満足といった面でデメリットを多く感じる。袋を買うことを伝える手間が増えたことでただただ面倒であり、買い物に行く回数も減り、生活に必要なものだけになっている。(東京都・20代男性)

     ◇

 「良いことだろうけど……」。レジ袋有料化は、賛成しつつもどこか納得できない人が多いと思います。街頭で「良い政策だと思えない」「政府のパフォーマンスに振り回されている」など厳しい声も聞きました。いまいち、そもそもの目的や理念が共有されず、納得感が得られていないのではないでしょうか。

 昨年、気候危機を訴える高校生たちの取材をしたのをきっかけに、私もレジ袋やペットボトルになるべく頼らないように意識しています。とはいえ、家も会社も世の中も、プラスチック製品があふれています。

 有料化は脱プラに向けた「かなり控えめな一歩」でしかありません。地球環境、というより私たちの社会のために、歩みのスピードを上げたいものです。(根岸拓朗)

     ◇

アンケート「頼むよ、新内閣」(働く・子育て・介護)をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでもどうぞ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません