トランプ氏のバノン元戦略官、詐欺罪で起訴 メキシコ国境の壁建設資金めぐり

罪状認否を終えてマンハッタンの連邦地裁を出るバノン被告(21日、ニューヨーク)

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画像説明, 罪状認否を終えてマンハッタンの連邦地裁を出るバノン被告(21日、ニューヨーク)

米司法省は20日、ドナルド・トランプ米大統領の戦略官だったスティーヴ・バノン被告(66)を、メキシコ国境の壁建設費用をめぐる詐欺罪で逮捕・起訴した。バノン被告は法廷で無罪を主張した。

司法省によると、バノン被告と他に3人は、アメリカとメキシコとの国境に壁を建設しようという募金活動で、数千人から資金を詐取したとされる。バノン被告たちの「We Build the Wall(自分たちが壁を造る)」募金活動は、2500万ドル(約26億4000万円)を集めた。訴えによると、被告はこのうち少なくとも100万ドルを受け取り、その一部を私費として着服したという。

バノン被告は同日、ニューヨーク連邦地裁に出廷して無罪を主張。保釈補償金500万ドルを現金と不動産で支払い、保釈された。刑事裁判が正式に始まるまで、個人所有の自家用機や船で移動することは認められず、出国も許されない。

米メディアによると、バノン被告は郵便監察局の捜査員によって、コネチカット州に停泊中の全長45メートルのヨット「レイディ・メイ」の上で逮捕された。郵便監察局は詐欺事件を捜査する。報道によると、ヨットの所有者は中国人の大富豪、郭文貴氏だという。

投資銀行から右翼メディアの編集長になったバノン被告は、2016年の米大統領選で、トランプ氏の選挙戦のテーマ構築に大きく貢献した。同被告の右翼的な一極主義や反移民思想が、トランプ氏の「アメリカ第一」スローガンの推進力となった。トランプ政権が2017年に、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」から脱退したのも、バノン戦略官の影響によるものと言われる。

トランプ氏の側近や元側近で逮捕されるのは、バノン被告で6人目。これまでに、ポール・マナフォート選対委員長、盟友ロジャー・ストーン元被告、マイケル・コーエン弁護士、リック・ゲイツ選対幹部、マイケル・フリン元大統領補佐官が偽証罪などで逮捕され、有罪となっている。

バノン被告の逮捕について聞かれたトランプ氏は、「とても残念だ」と答えた。自分は「We Build the Wall」事業に何も関係していないと述べた。

「(壁の建設は)政府がやるべきことで、民間人がやるべきじゃないと、自分は答えた。悪目立ちしようとしているだけに思えて、当時そうはっきり伝えた」という。

「れんがを買おう」と出資呼びかけ

image from We Build the Wall website

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画像説明, 「We Build the Wall」事業は出資者に「れんがを買おう」と呼びかけていた

「We Build the Wall」事業は、メキシコとの国境の壁の一部を私有地に建てようと、出資を募った。賛同者は、自分の名前が刻まれたれんがを購入しようという呼びかけだった。

ニューヨーク州南部地区連邦検察官事務所のオードリー・ストラウス検事正代行によると、バノン被告と他の被告3人は、「集めた募金は全て建設に使われると虚偽の説明をして、壁の建設を支持する数十万人の出資者の関心を利用し、数百万ドルを集めた」。

バノン被告は自らの非営利団体を通じて100万ドル以上を受け取り、一部を個人経費に使ったという。事業を立ち上げたブライアン・コルファージ被告は、自分は一銭も受け取らないと出資者に繰り返していたものの、「数十万ドルを着服し、派手なライフスタイルを維持するために使っていた」という。

同検察官事務所のフィリップ・バートレット捜査主任検事は、被告4人が「法や真実を一顧だにせず、犯行隠蔽(いんぺい)と資金洗浄のため虚偽の納品書や銀行口座などを作っていた」と説明した。

ニューヨーク州南部地区の検察官事務所は、これまでもトランプ氏側近に対する一連の捜査と起訴を続けてきた。今年6月には、ウィリアム・バー司法長官が本人に知らせる前にジェフリー・バーマン連邦検事正の「辞任」を発表。本人がこれに反発し、結局は「解任」されるという顛末(てんまつ)があった。このときバー長官は、バーマン氏の後任を任命しようとしたが、激しい批判にさらされ、次席検事だったストラウス氏が検事正代行となった。

今回バノン被告の起訴を発表したのは、そのストラウス検事正代行だった。

国境の壁はどうなっているのか

メキシコとの国境に壁を建設するという案は、2016年大統領選でトランプ氏が繰り返した目玉公約だった。トランプ氏は当時、建設費はメキシコ政府に払わせると力説していた。

トランプ氏の就任前、アメリカとメキシコの間には1000キロあまりの障壁が建てられていた。トランプ氏は当初、国境の全長3000キロ以上に壁を造ると公約していたが、山や川の自然障壁があるため、新築が必要なのは1000キロ程度で済むと修正した。

A map showing border barriers along the US-Mexico border
画像説明, 2017年以前からアメリカとメキシコの間にあったフェンス。赤は歩行者、黄色は車両の通過を防ぐもの
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トランプ氏は昨年2月、この建設費を議会承認を得ないまま確保するため、不法移民の越境急増を理由に国家非常事態を宣言。与党・共和党が多数の上院も非常事態の無効化を支持したが、トランプ氏はこれに拒否権を発動した。

壁の延伸工事は昨年から始まった。費用は、連邦議会がすでに承認していた予算に加え、非常事態宣言後にホワイトハウスが国防費内から確保した予算を割り当てている。それでも、当初見積もりの120億ドルには届かず、実際にかかるとされている建設費には遠く及ばない。

トランプ政権は2020年末までに約820キロ分の壁の建設を終えるとしている。