ゲノム編集「22世紀ふぐ」返礼品に波紋…「不安」「地元振興に期待」 京都府宮津市

従来品種㊦の1.9倍速く成長し、必要なエサの量が4割減で出荷が可能な「22世紀ふぐ」㊤(リージョナルフィッシュ提供)
従来品種㊦の1.9倍速く成長し、必要なエサの量が4割減で出荷が可能な「22世紀ふぐ」㊤(リージョナルフィッシュ提供)

京都大発ベンチャー「リージョナルフィッシュ」(京都市左京区)がネット通販などを通じて販売しているゲノム編集されたトラフグ「22世紀ふぐ」。京都府宮津市はこのトラフグをふるさと納税の返礼品に採用しているが、ゲノム編集技術に反対する市民が「安全性に問題がある」と返礼品から削除するよう求める請願書を市議会に提出している。議会で採択されれば日本のゲノム編集研究に影響を与える可能性もあり、開会中の市議会に注目が集まっている。

1・9倍の速さで成長

「22世紀ふぐ」は、ゲノム編集技術により一般的な品種の1・9倍の速さで成長するよう品種改良されたトラフグ。市は令和3年12月にこのトラフグを返礼品に採用、今年3月末までに約150件、約450万円の寄付が集まっている。ツイッターには、寄付をした人から「うまい」「身が厚くプリプリ」などの投稿があり、返礼品に満足している様子がうかがえる。

このトラフグに対し、市民の女性2人が返礼品として扱わないよう求める請願書を市議会に提出。請願書は、国の安全審査のみで返礼品としたことなどを問題とし、安全性が確認されるまで返礼品から削除するよう要望している。

SDGs実現技術

この請願書に対し、消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」が市議会議長らに意見書を提出。「ゲノム編集技術はSDGsを実現するために国の『バイオ戦略2019』にも位置付けられた重要な技術。社会の中で活用されなければその価値を発揮できない」とし、返礼品としての活用継続を求めた。代表の市川まりこさんは「ゲノム編集フグが嫌な人は食べなければいい。なぜ食べたい人の選択の自由まで奪おうとするのか。消費者の選択の自由が科学を無視した間違った不安情報によって理不尽に奪われようとしている状況は看過できない」と話す。

ゲノム編集トラフグを巡り宮津市民対象に開かれた講習会。賛否両方の意見が出た=4日、京都府宮津市
ゲノム編集トラフグを巡り宮津市民対象に開かれた講習会。賛否両方の意見が出た=4日、京都府宮津市

請願は3月の市議会総務文教委員会では結論が出ず継続審査となった。今月12日に同委員会が開催されるのを前に市は4日、市民を対象に「講習会」を開催。東洋大食環境科学部の田部井豊教授が「ゲノム編集技術応用食品について」と題して講演し、リージョナルフィッシュの梅川忠典社長がこれまでの取り組みを説明した。意見交換では市民から「むしろ不安がふくらんだ」「地元振興につながり期待したい」など賛否それぞれの声が上がった。

応用研究に影響も

田部井教授は「宮津市だけの問題ではない。請願が採択されれば、今後日本でゲノム編集技術を活用した基礎研究や応用研究が難しくなる可能性がある。社会実装が難しいものに国は予算を出さないので」と、日本のゲノム編集研究に与える影響を懸念する。

こう考えるのは、遺伝子組み換え(GM)作物研究での苦い経験があるからだ。GM作物は、国が安全性を確認した品種は栽培が認められている。しかし、栽培に適した地域で反対運動が盛り上がり、自治体が独自に条例などで栽培を規制。その結果、日本ではGM作物を大量に輸入しているのに、栽培できない状況が続いている。そして、GM研究自体がほとんど行われなくなってしまった。

かつてGM技術を使い病気に強いキュウリの開発などを行っていた田部井教授は「GM作物は世界的に広く栽培され、栽培する国の農家は経済的メリットを享受している。栽培できない日本で農家はそのメリットを享受できておらず、ゲノム編集でも同様のことが懸念される。新しい技術を不安に思う人をゼロにはできないが、広く理解してもらうための活動に国や企業、大学などの関係者も力を入れるべきではないか」と話している。

ゲノム編集技術 生物の細胞が持つゲノム(遺伝情報)の中の目的の遺伝子を改変することで、その生物の性質や特徴を変える技術。農林水産物の品種改良のスピードを速めて、世界の食糧不足に対応した収量の多い品種や気候変動に対応した品種、栄養成分が高い品種の開発が期待されている。日本では、食中毒の原因となる天然毒素を低減したジャガイモなどの研究が進められている。(平沢裕子)

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